この前の連続模型で使った一斗缶を素材にして、再利用、加工する。
塗装をすべて剥いで、全体を錆びさせる。
さらの一斗缶は、亜鉛メッキですぐには錆びないが、連続模型の作業中にいくらか実験して勘所はつかんだ。
日程的には、王子小劇場の演劇祭前夜祭のための作業も並行・優先して行いたいところだが、錆させるためには一日でも長く置いておく時間が効いてくるのがわかったので、とにかく錆化の準備作業を先行させた。
塗装を落とすためにグラインダーにワイヤーブラシカップをつけて、ゴリゴリ削る。
ついでに、亜鉛メッキも落とす勢いで、鉄の表面をザラザラと傷つける。
傷ついて表面積が増えると、錆化が促進されるようだ。
塗装を落としてザラザラになった一斗缶を、さらにガスバーナーで焼く。
熱湯を注いだシンクのように、一斗缶がベコンベコン鳴って表面も色が変わる。
そのくらい焼きが入ったところで、ジュっといわせて、水につける。
焼きを入れて、急速に冷やすと、鉄は酸化が進むらしい。
酸化と錆化は厳密には違うのだが、目下扱っているものでは酸化を進めるのと錆化を進めるのは近いようだ。
実際、実験段階でも焼きが入ったところから錆び始めるということはあった。
そんなことをしているところに、久しぶりタテヨコ企画の横田さんが工房にやって来た。
横田さんは、元・青年団〜アゴラ劇場〜突貫屋の人で、舞台美術家でもあったが、今は作・演出に専念している。
実は(詳しくは他にも紆余曲折あるのだが)一方的に自分にとっては「飲み席で横田さんと出会っていなかったらきっと今ごろ舞台美術とかしていなかったかもしれない」縁の人だ。
「また横田さんに変なことしてるところ見られてしまいましたねー」
と言ってみる。
まあ、変なことばかりやってるのだが。
横田さんに専門の液剤とか使わないのか?と聞かれた。
実際、ハンズなどで錆っぽく処理する液剤は売っているし、もっと専門的な処理剤もあるようだ。
しかし、舞台装置で使うほどの量になると、高くてちょっと手が出ない。
錆び方も、ちょっと目指しているものとは違う。
工房の杉山さんには、サンポールとか塩酸系の洗剤を勧められたが、今回実験してみたところでは、全体にきれいに酸化が進む(黒錆化しているようにも見える)ものの、「いかにも錆」という赤錆化は進まなかった。
なので、一通り焼きまでいったものを、一度塩酸系の洗剤に浸してよく乾かし、最終的には塩素系の洗剤をベースにした液に漬け込んだ。
塩素系の洗剤は、前回はカビハイターを使ったが、今回はスーパーで安かったのでカビキラーをベースにしてみた。多分効果はあまり変わらないはず。
塩素系の洗剤のみだと、液量としても足りないし、塩素が強すぎて扱いにくい。
界面活性剤が入ったネバネバ感も強すぎるので、水で薄めて、たっぷり塩を溶かす。
さらに、錆た物どうしまとめておくと、より錆が進むようなことが経験則的に感じられたので、前回の作業で残していた「錆色になった塩水」と、すでにさびさびになった物をいっしょに漬け込んだ。
ちょっとした漬けダレのよう。
そして、漬けつつ、たまにバーナーで炙っては、再度漬けることを繰り返した。
錆化は、乾く際に起きるようなので。
ずっと水に浸かったままの部分というのは意外に錆が進まない。
適度に乾かし、ジトっと濡れた状態を繰り返してやるのがよいようだ。
ここまで進んだら、あとは時間をかけるだけ。勝手に進行してくれる。
焦ってもしょうがない。明日は、前夜祭の用意をする。