舞台美術プランとか劇場スタッフとか、

かつては写真とかしてきた、松本謙一郎のサイト。


最近(2010年〜)はもっぱらツイッター( @thinkhand / ログ )で、ブログとしては更新してませんが。

2008年あたりは、割と色々書いてます。






























2009年12月16日

劇場は生き物

これまでは、あった出来事に投稿の日付を合わせていたが、あんまり日記にもなってないので、これからは書いた日付のままにしよう。

11月23日、すでにしばらくたつが、年明けのパセリスに向けてOFFOFFシアターの下見採寸。
以前、ちゃんと美術プラン(作品記録)として入ったのは、猫☆魂「アンラッキー・デイズ」初演のときだから、2004年。約6年ぶり。
そのとき、割と詳細に採寸してつくった図面(CAD)データはあるのだが、その後一部の壁面を防音強化したという噂を聞いていたのでその確認のため。
あと空間の感覚を再確認する意味も大きい。
実際の空間に身を置き、動いたりしながらの美術打ち合わせは、やはり発想が広がって効果的だ。

その2004年バージョンの図面(CAD)データが、その後数人身近な人の手に渡っていることは知っていたが、意外とさらに流通したよう。
今回の舞台監督が事前に用意していた図面も、よく見ると、そのデータがベースになっていた。
細かい数値がmm単位で同じなので、間違いない。
こういうことが、もっとオープンソースのように展開出来るとよいのだが、舞台スタッフの世界が2.0化していくのには、まだ時間がかかりそう。

バラし(撤収作業)後の下見で、あまり時間もなかったし、作・演出家と色々相談しつつだったので、だいたいのところは以前からの図面を信じることにして、厚くなった壁の寸法のみ要所要所採寸する。
あと、図面に入ってないかもしれないところ、後で気になりそうなところはデジカメで記録。

実測の数字を図面に反映させてみると、奥の壁面が73mmほど厚くなっているようだった。
画像ではないファイルをこのブログにアップするために、Googleグループのファイル機能を使ってみたら可能だったのでアップしてみる。
OFFOFFシアター平面図データ(ベクターv.8)(PDF)(梁図面PDF

こういう個人作成の図面データをオープンソース的に共有していくのには、作図の信頼性、責任という問題が出てくる。
自分が採寸・作図したのではない図面を信じて舞台装置をプランし、建て込んだ結果寸法が合わない、それによってトラブルが発生した場合、だれに責任を求められるのか?

それは、最終的にプランし建て込む者(舞台美術家、舞台監督、大道具チーフ、など状況と現場の性質によると思うが) にあると思う。
自分が採寸・作図していない図面、たとえば劇場側が用意している図面をもとに、寸法ギリギリの装置をプランして、そのようなことになった場合、劇場にその責任を追求出来るだろうか?

そのようなギリギリのプランの場合、作図段階での精度やミスの問題も考えられるし、装置の精度やミス、施工段階での、墨出しや施工方法による誤差やミスまで考えられる。
劇場図面の不備に原因を絞り込むには、相当の検証が必要だ。

工業製品でない舞台装置の場合、(自分の場合は)1mm2mmの精度は目指しても、影響ないと判断したらある程度でよしとするし、3mm4mmでも許す人や状況はあるだろう。
劇場備品(その多くは木製)も経年劣化するもので、多少の狂いは目くじら立てないのが現場の共通認識だろう。平台の框の厚みなど、杉材なら5mm6mmも経年劣化で縮むことがある。
装置も備品も木でつくられることが多いので、反りやゆがみが数mmの誤差になることもある。

そんな装置や備品を構成してつくられる舞台は、1mm2mm〜5mm6mmまで誤差の積み重ねが発生する。部分的に許していた1mm2mmも積み重なれば、10mmにも20mmにもなる。
そうすると、さすがに1mm2mmでは怖いから10mm20mm余裕を見ていたものも入らなくなったりする。ギリギリなら、なおさら。納まらないときは1mm違っても納まるものではない。

そんな、おそろしく可能性が追求できることをいちいち検証していられるほど日本の劇場の現場には時間の余裕はない。追求したところで、大事なのは時間なので、何の保障が期待出来るものではない。
問題が発生しないように、どの程度余裕をみたプランにするのかも、ちょっとくらいの問題は現場で解決できると、解決法も想定してギリギリまで攻めるかも、自分の責任だし自由だ。

だから、劇場公式の図面に精度や信頼性など、求めなくなっているのが、少なくとも自分の身の回りのスタッフのスタンダードだと思う。
自分の場合、ほぼ必ず下見採寸し、自分で作図する。他の図面データをベースに修正をかけたりもする。
それ以前に、ここまで論証してきたレベルよりも圧倒的に精度の低い図面を公式図面にしている劇場が意外と多いのが、日本の、、100を越えて存在する東京の小劇場の現実だ。

その上、ただでさえ劇場はケーブルコンセントや配管など微妙な突起が多くなりがちな上に、小劇場空間には転用施設や自力改装などが多く、むき出しの梁や構造・配管・ダクトなど不規則な箇所が非常に増える。
このOFFOFFシアターも雑居ビルのワンフロアーで、舞台奥の不定形な斜めの壁面と癖のある梁が特徴的だし、同じフロアーの駅前劇場、上手舞台奥のダクトには悩まされたスタッフは数多く、有名だ。
そして、こういった設備は、日々痛むこともあれば、メンテナンスもされ、微妙に形を変えることがある。

管理が杜撰な劇場だとなすがままに老朽化して状態が変化するだろうし、営業努力を惜しまない劇場であれば、改善により状態が更新されていく可能性がある。どちらにせよ、小劇場施設は変化していく性質がある。

舞台スタッフの常識として、劇場公式図面(は、さすがにある程度の信頼性がなければ、劇場としての信頼に関わるが、それをどの程度と考えるかという議論は、別として。別途、共通認識がつくれるといいとは思う。大きなホールのバトン図などが100mm〜500mmもずれてることにはよく遭遇するが、100平米以下の小劇場でそこまで違っているのは、同じに出来ない。)にしろ、だれかが作図した図面にしろ、どう信用してどうプランし仕込む(施工する)のは、実際プランし仕込む者の責任であるというリテラシーが業界で共有出来れば、オープンソース的な図面情報の共有化がもっと進んでよいのだが、と思う。
完全に信用して使うことはないにせよ、より信頼できるベースから修正かけるだけでも楽だし、それほどの精度が必要ないときや、下見採寸出来ないときにはかなり役に立つはずだ。


同じ本多劇場グループの劇場、ザ・スズナリの公式図面には

劇場は生き物です 厳密な数字が必要なところは実際に劇場に来て採寸ください。」

(後半うろ覚え)という名文句が書き込まれている。
腹を立てる人もいるとは思うが、自分は素敵だなあ、と思う。

知り合いの音響さんに聞いた話では、音響ブース内(何度も入ったことがあるのだが、気がつかなかった。)には

「機材が不調なときは劇場スタッフに声をかけてください。 なんとかします

という張り紙があるらしい。
なんとかします」これも格好いい言葉だ。
ちまちまと責任問題とか、条件づけとか説明しない。
相談に乗るのか、いっしょに問題解決するのか、修理するのか、他の機材を用立てるのか、金銭的保障をするのか、わからないが。そんなことは状況による。それがライブの現場だ。
とにかく、なんとかするのだ。なんとかするしかないのだ。
とにかく対応するのが劇場の仕事。
このことに関しては、また何かの機会に書きたい。