舞台美術プランとか劇場スタッフとか、

かつては写真とかもしてきた、松本謙一郎のサイト。


今(2010年〜)はもっぱらツイッター( @thinkhand / ログ )で、ブログとしては更新してませんが。
最近は主にもろもろの告知とアーカイブ、ポータル的編集記事など。

2008年あたりは、割と色々書いてます。






























経験値をかせぐ

うかうかしていたら二ヶ月も更新出来ずに過ぎてしまった。
正確には10月の記事も11月に書いていたのだが。
振り返りつつ、書くべきこと書こうと思うことは書いていきたい。
都合、多分2008年9月〜12月あたり日付の記事に関しては、かなり後から書いたことになる。
もしかしたら8月あたりの記事も書くかもしれない。

それはそれとして。
ナカゴー仕込み日、王子小劇場へ出勤。
新規入れ替え機材の使い方を習得したり、機材トラブルの解決をしたりで、経験値をかせいだ一日。
朝、搬入口(通用口)に行くと、今日から今年からピンポイントで劇場スタッフに加わるヨシムラアイコ嬢がすでに。
ヨシムラ嬢へ劇場業務のガイダンスは他のスタッフに任せて、団体の仕込み対応をする。
ワンボックスカーに余裕のある量の搬入はすぐに終了。
照明の仕込み(機材セッティング)は昼からの予定であるうちに、午前中配達指定した入れ替え機材が届く。
故障した照明(操作)卓に替わるもの。

これまでの照明卓は、「マニュアル操作卓」である丸茂の「Lighting boad」だったが。
入れ替えで入るのは「記憶卓」であるETCの「Smart Fade 2496
記憶卓というのは、マニュアル卓だと手動で行っているフェーダー操作、言いかえるとシーンごとの照明のバランスや変化のスピードなどを機械に記憶させて、簡単に狂いなく操作出来るシロモノ。
自動車のマニュアルミッションとオートマチックの違い、と言えば知らない人にはわかりやすいと思うが、あまり正確な比喩ではないだろう。
あるいは、今まで手作業でやっていたことをパソコンでやる違いに近いか。
圧倒的に便利にはなるが、覚えるべきことが発生する。増える。
それも機械・機種個別の操作方法を覚えることが必要になる。

新入り早々ではあるが、この卓を使ったことがあるヨシムラ嬢に、使い方を聞きつつ、説明書をひもとき、とりあえず今回の団体に使ってもらうのに最低限必要なマニュアルでの操作方法を探る。

この「Smart Fade 2496」は記憶卓ではあるが、マニュアル操作で「24フェーダー・2段」という、これまでに遜色ないスペックでの使用が、容易に可能という話で選んだ。
劇場利用者には、記憶卓に慣れたプロでベテランの照明家もいれば、ごく簡単な照明効果をシロウトの役者さんが操作する場合もあるので、アナログでわかりやすくマニュアル操作出来ることも重要、というのが目下の王子小劇場のスタンスだ。

しかし、容易にマニュアル操作(「Smart Fade 2496」の説明書では「2シーンモード」となっている)出来るはずなのに、ヨシムラ嬢も記憶卓としてしか使ったことがなく、「2シーンモード」への切り替えが、盲点のような方法
(モード切替スイッチが電源スイッチと兼用!)
で、説明書の目立たない箇所に書かれていたため、しばらく試行錯誤する。
そもそも記憶卓を完全マニュアルで使用するということ自体が、プロの照明さんからしたら、やや盲点。

説明書には、電源を入れて何もしなくても「2シーンモード」つまりはマニュアル・2段で使えるかのように書かれていたが、現実には、パッチ(各フェーダーに各DMX信号のchを割り当てる、簡単に言うと各フェーダーが担当する照明機材を決める)をしなくてはならず、そしてパッチをするには「ノーマル・モード」に切替えなくてはいけないという盲点もあった。

ともかく、新しい照明卓のマニュアル操作での使い方を習得。やや経験値が上がった。
記憶卓としての使い方を覚えるのは、またの機会。


照明のミッションをクリアしたところで、今度は音響のトラブルが起こる。
CDデッキのボタン操作をした時に、原因不明のノイズが入る。
各機材、ケーブル、すべてチェックしてみても解明が出来ない。
アンプやスピーカー、電源を変えても同様に発生するので、デッキ自体の問題ではないかと絞り込む。

念のため、知り合いの音響さんに相談してみたところでも、まず考え得るのはデッキではないか、とのこと。
やや故障するには早いが、買って数年するものではあるし、業務用機ではないので、考えられなくはない。
プロの音響さんの感覚だと、デッキ類は消耗品だ。
ヘビーに使う人なら、1年とか1ツアーで買い直すという話も聞く。

ホール内の作業が、音響の時間にならないうちに、他のスタッフに秋葉原まで新しいデッキを買いに走ってもらう。
こういう時、秋葉原が近いのは便利だ。
すでに二世代後の後継機になったCDデッキが購入されてきて、すぐにつなぎ直してみる。

しかし、それでもノイズが消えない。
問題は、デッキではないらしい。
こうなると原因はミキサーしかないと睨んで、すべての思いつく点をチェックする。
まさかそんなはずではない、ファンタム(ファントム)電源(について、くわしいことを書くととても長くなるので、参考サイト
http://homepage1.nifty.com/ENTARO-KOYA/mic.htm
http://www2.famille.ne.jp/~teddy/balanced/bal3.htm
http://blog.zaq.ne.jp/senri/article/60/
など)のスイッチが入っているのを見つける。
原因はここだった。

新しいデッキを買ってしまったのは無駄だった気もするが、原因を迅速に絞り込めただけでも正しい判断だったと思う。
そうでもなければ、ファンタム電源など普段使うことがないので、思いつきもしなかっただろう。
今回のトラブルで、すでに古いデッキが損傷している可能性もあるし、そうでなくてもそのうち入れ替えは必要だったろうから、無駄ではないはず。

とにかく、こういうトラブルを解決する経験が技術になる。
舞台スタッフのスキル、特に本番オペレーションを行う照明さんや音響さんの技術というのは、その操作の技術だと思われることもあるだろうが、本当はこういったトラブル解決技術が大きいのだと思う。
現場は常に思いもよらないトラブルとその解決の連続だ。

劇場スタッフとしては、出来るだけそのトラブル解決に力にならねばならないが、傍観者的に劇場管理をしているだけではなかなか現場的な経験を積むことが出来ないので、こういったトラブル解決をする機会は貴重で重要だと思う。