舞台美術プランとか劇場スタッフとか、

かつては写真とかもしてきた、松本謙一郎のサイト。


今(2010年〜)はもっぱらツイッター( @thinkhand / ログ )で、ブログとしては更新してませんが。
最近は主にもろもろの告知とアーカイブ、ポータル的編集記事など。

2008年あたりは、割と色々書いてます。






























作業記録 / プロトタイピング

JBJJPの作業日。
まだ全体プランには詰めるべき要素、打ち合わせるべき要素があり、決定プランでないため作業に入れない。
必要な数や、適度なサイズがわかっている椅子のデザイン・製作作業から入る。

工房で朝から、デザインの詰めをし、昼までに試作品を製作。
写メと電話でデザイン決定の相談をして、量産に入る。
夜、それを稽古場に持参する予定だったが、稽古中止になったため、工房での打合せになる。
色見本もつくり、見てもらう。

サイズは寸法でも伝えたが
基準に紙パックをとなりに置いて撮る
椅子といっても300mm立方の箱に近い

この試作では台形の角度がきつくバランスが悪いので
もう少し角度を弱くすることにして12脚の量産を開始


同じサイズのものを続けて切り出して
丸穴センターのスミを出す

円を描くのには「コンパス」は使わない ベニヤと釘で充分
大道具をつくるのに「コンパス」を使っているのを見ない
多分「コンパス」では描けないサイズの円が多いから
これもコンパスには違いないしこのサイズなら
「コンパス」でも描けるのだがわざわざ使わない


インパクトドライバーにドリルビットを装着して穴をあける
穴からジグソーの刃を入れ円を切り抜く

この部材はちょうど工房にあった残材
シナの20mmランバーコアの端材を利用


すべての部材が切り出せたら組み上げ
合わせる部分のスミを出してボンドをつける

フィニッシュネイラー(左)で打って
要所要所はビスを打って補強

すべて組み上がった状態
これは次の作業日の画像



夕方より、舞台監督の山下氏が打合せより早く来訪、少し手伝ってくれる。
部材の切り出しはすべて終ったが、組み上げは4脚までで終る。
組み上げが終ったものも、この後仕上げ工程が残っている。
毎回つくってから思うのだが、10脚程度だと何のことはないと思ってつくりはじめ、つくってみて意外に時間がかかることに気がつく。
一つ一つつくるのに比べれば、個数つくるの時に効率化はされるが、50とか100とか以上の単位で工程をシステム化しない限りさほどの効率化は望めない。
10とか20くらいが、なかなか微妙な数だ。

作演出・清水さんが来るまでに、舞台上で使う色の見本を実際の素材と塗料でつくる。
プランにあたって必ず色見本をつくるとは限らないが、今回は色味に関してスタート段階から演出イメージ上こだわる何かがあるようだったので、重要度を上げた。
実際の素材でないと、印象が変わることもある。
塗料は乾いてみないと本当の色味がわからないので、乾燥する間に打合せを始める。

台本を頭から追いかけながら、決定していなかったことの決定、まだ知らなかったことの確認、プランに実用上の問題がないかチェックなどをした。
あらかたのことが決まって、三日後の次回作業日までに図面も進行出来る。
特にラストシーンの方針が決まって安心。
大がかりなことが発生するとなると、舞台全体のプランも大きく変わる可能性があるので。

乾燥した色見本を並べて、色も決定。
試しに、組み上がった椅子にざっくりと色を塗り、印象を見てもらう。
数並べたり、積んでみたりもする。


演劇とくに小劇場演劇の製作過程では、時間や予算の問題で、プロダクトデザインのようなプロトタイピング(試作)はなかなか出来ない。
しかし図面や模型、ラフ画など、プランを目に見える形にすることはすべて、広い意味ではプロトタイピングだと思う。実寸をとった稽古や通し稽古、場面転換の確認を行う「場当たり」などもある種のプロタイピングだろう。

自分の場合、この椅子のように可能でかつ早く行えるものであれば、こうやってまず試作をしてから量産したり、プレゼンすることが割と多い。
椅子のように出演者の手に直接触れ、持ち運ばれたり、加重がかかるものは特に、こういったプロトタイピングが大事だと思うので。
自分が考えるのにも、他者に伝えるのにも。

予算が限られた小劇場演劇の小道具などは、素材のコストも製作時間も制限があるので、実用に近い試作品を作ることは手軽で、手っ取り早い方法だと思う。
これもラピッドプロトタイピングの一つではないだろうか。

考えて悩むより、まずつくってみる。形にしてみる。
模型ではなく、いきなり原寸で、現物をつくってみて考える。

ラフ画や図面だけでデザインを検討するより、実寸ではじめてわかるバランスもある。
実際の素材でつくってみて、加工法や強度が見える。
プロトタイプをそのまま実用にすることも多く、また修正を加えつつ完成形にすることもある。
今回のように、実際に演出家や出演者に手してもらえると、さらに色々なことが見える。

そういう意味で、舞台監督はもちろん、演出家や出演者、時には照明家が工房に来てくれるのは大歓迎。
色見本もプロトタイプの一つだが、今回の色見本は照明さんにも渡してもらえるよう、演出の清水さんに託した。